「すみませんでした!」
「いや、だからもう謝らなくていいから」

(刑部くん、先刻から何度も頭下げている)

私はキッチンから夕食の支度をしながらそんな光景を眺めていた。


家まで送ってくれた刑部くんと一緒にいる処を偶然帰宅して来た千影に見られてしまった。

そんな千影を前に刑部くんは何か勘違いをして一方的に千影に啖呵を切っていた。

其のまま公道で話しているのも近所迷惑だと思った私は思わず刑部くんを家の中に招いていた。


「遠峰さんがお兄さんの事を呼び捨てにしているとは知らなかったので俺・・・つい元カレが遠峰さんに寄って来たんだとばかり」
「明乃、僕たちが双子だって云っていなかったの?」
「・・・うん」

そういえばそうだったなとぼんやりと思い出した。

刑部くんと兄弟の話をした時、私は単に『兄がいる』としか云っていなかった。

「普通お兄さんだったら『お兄ちゃん』とか『兄貴』とか・・・そう呼ぶんだろうなって思い込んでいた俺が悪いんです」
「だからもう気にしなくていいから」
「はい・・・遠峰さん、双子だったんだね」

リビングのソファから刑部くんが少しだけ顔を赤らめてキッチンにいる私に声を掛けた。

「うん・・・二卵性だから似ていないんだけど」
「男女の双子ってそうなんだってね───其れにしても・・・遠峰さんのエプロン姿・・・可愛いなぁ」
「!」

急に話の流れがおかしくなった事に思わずじゃがいもを剥いていた手が止まる。

「そうだ、刑部───くん、だっけ?よかったら君も夕飯、一緒にどう?」
「はあっ?!」

千影の突然の誘いに刑部くんは素っ頓狂な声を上げた。

「先刻も話したけど、父親不在で明乃とふたりだけなんだよ。明乃も彼氏に手料理食べさせたいだろう?」
「ちょ、な、何云って」
「いいんですか?!」
「っ!」

私が照れ混じりに反論しようとした言葉を遮り、刑部くんはキラキラと瞳を輝かせて千影と私を交互に見た。

「いいよな、明乃。一人分増えたところで支障ないだろう?」
「~~~」

(千影ったら!)

気付き始めたばかりの恋心を抱いた私は、其の相手である刑部くんに突然手料理を振る舞う事になった流れに戸惑っていた。

「嬉しいなぁ~まさかこんなに早く遠峰さんの手料理が食べられるなんて」
「・・・」

当の本人はもうすっかりいただきますモードだ。

「遠峰さん、いい、かな」
「!」

少し上目遣いで見られドキッと胸が高鳴った。


(な、何・・・この心臓の痛みは)


今までに感じた事のない症状に驚いた。

「いい・・・けど・・・刑部くん、遅くなってもいいの?」
「あ、うん。連絡しておけば───そうだ、ちょっと家に電話するね」

そう云って刑部くんはリビングを出て廊下で電話を掛け始めたのがガラス扉から窺えた。


「しかし・・・まさか明乃が堂々と彼氏を僕に見せつけるとはねぇ」
「え」

呟く様に云った千影の言葉に瞬時に反論した。

「見せつけてなんかいないわよ。たまたま送ってもらっていた処に千影が───」
「家まで送らせた彼氏って今までいた?」
「・・・」
「其れに送ってくれた彼氏も」
「・・・」
「まぁ、いいんだけどさ。兄としては妹がちゃんとした男と付き合っていると知れば安心するんだから」
「・・・千影」


もしかして千影は私の不毛な恋愛遍歴を知っていたりするのだろうか?

面と向かって話した事はなかったけれど、私が千影の交友関係を薄っすら知っている様に千影も───

そんな事を考えている間に刑部くんは電話を終えリビングに戻って来た。

そして「粗相のない様にしなさいってめっちゃ念を押された」とにこやかに告げたのだった。


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