すっかり陽が落ちた薄暗い道を、私は刑部くんと歩いていた。

私の左手は刑部くんに右手に収まっていた。


『今日は絶対家まで送らせて!』

そう云われ、若干強引に手を取られて今に至る。

「・・・ねぇ、刑部くん」
「ん?」
「・・・」
「何?」
「・・・ありがとう」
「え」

家の門が見えて来た処で私は少しだけ刑部くんの手を引っ張って云った。

「私なんかの事を・・・好きになってくれて」
「なんかって」
「なんかだよ。私・・・多分、おかしいと思うから」
「・・・」
「顔と体だけの女の代表みたいな感じで・・・きっとこれから付き合って行くと刑部くんも解って来ると思う」
「・・・」
「私・・・つまらない女なのよ」


何故今、こんな事を云っているのか解らなかった。

自分で自分の評価を下げて、貶めて・・・こんな感情今までになかった。


───多分、これは自己防衛なのだろう


見かけで好きになったかも知れない刑部くんに厭きられ、捨てられる事を心の何処かで恐れている気持ちが云わせているのかも知れない。


其れはつまり───


(私は刑部くんの事を・・・)


「つまらなくなんかないよ」
「え」

俯いていた顔を上げると、刑部くんの今までに見た事のない真っ直ぐな視線と絡み合った。

「遠峰さんはつまらなくない」
「・・・」
「おかしくなんかない」
「・・・」
「顔と体だけの女なんかじゃないって俺、知っているから」
「・・・」
「だからどうか不安にならないで」
「~~~っ」


どうして彼の言葉にいちいち胸が震えるのか解らなかった。

でも其れはきっと今まで私が持つ事のなかった甘い感情の正体を知った時、解るのだった。


「明乃?」
「!」

不意に後ろから掛けられた声に一瞬にして体が強張った。

「ち、千影」

よく知った其の声の主は振り向く前から解った。

「こんな往来で何しているの───って・・・おまえ、其の男」
「あっ」

千影の視線が私の隣にいた刑部くんに注がれた事で、ようやく私は今の状況を察した。

慌てて繋いでいた手を放すと、一瞬刑部くんの顔が何ともいえない表情をした。

「あの、か、彼は───」
「俺、遠峰さんの彼氏の刑部達己っていいます」
「! 刑部くん」

いきなり語気を強めた刑部くんが一歩前に出て千影に云い放った。

「あの、あなたは遠峰さんのなんですか」
「へ?」
「彼女の事を呼び捨てにするなんて・・・元カレですか?彼女に未練があってこんな処で待ち伏せていたんですか?!」
「えーっと、僕は・・・」
「刑部くんっ」

千影に一方的に捲し立てる刑部くんが何か誤解をしている。

そんな刑部くんの言葉に千影は戸惑いながらも、何か面白いものを見るように口の端が上がっていたのを私は見逃がさなかった。


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