「じゃあ遠峰さん、また明日」
「さようなら」

結局刑部くんとは一時間ほどカフェでお喋りをして其のまま駅で別れた。

帰り際家まで送って行くと云ったけれど、刑部くんの家とは正反対に位置する私の家まで来てもらう事が憚れたので丁重にお断りした。

ホームでぼんやりと電車が来るのを待っていると、丁度真向いのホームから手を振っている刑部くんが見えた。

周りに人がいて、チラチラ見られているにも関わらず彼は恥ずかしげもなくブンブンと手を振っている。

(全くもっておかしな人)

カップでの間接キスはあんなに恥ずかしがっていたのに、其れよりも恥ずかしいだろう公衆の面前でのオーバーアクションは恥ずかしくないらしい。

ホームに電車が来るアナウンスが入った処で私はちいさく手を振り返した。

其れを見た刑部くんは思いっきり破顔して更に大きく手を振っていたのだった。



「・・・」

電車に揺られながら考えるのは刑部くんの事。

知り合ってからまだほんの数時間しか経っていないのに、私の心をこんなにも占拠している彼は初めてだった。

(刑部くんって・・・他の男とは違うのかな)

そんな事をぼんやりと思ってしまった。


高校の最寄駅から5駅。

自宅近くの駅に着いたのは19時前だった。

其処から徒歩10分程歩けば我が家に到着した。

門に手を掛け中に入ろうとした瞬間、玄関が開き中から兄と見知らぬ女の子が出て来た。

「えっ!」

兄と同じ高校の制服を着た其の子は私を見て一瞬驚いた。

「妹の明乃(アケノ)だよ」
「え、あ、あぁ・・・妹さん」
「・・・妹です」

兄が女の子に私の紹介をしたので其れを受けて応対した。

「あははっ、ビックリしちゃった。あまりにも美少女で。まぁ、千影の妹さんなら納得か」
「無駄なお喋りはしないで、ほら早く行かないと電車出ちゃうよ」
「あぁ、そうだった。じゃあね、千影。其れと妹さんも」
「はい、さようなら」

女の子は人のよさそうな笑顔を向けて小走りに駅に向かって行った。

玄関先に残された兄と私。

「おかえり、明乃」
「ただいま、千影」
「今日は随分と早い帰りだね」
「いつも遅い訳じゃないよ」

そんな会話をしながら私たちは家の中に入った。

其の瞬間

(・・・この匂い)

ある種嗅ぎ慣れた匂いが漂った。

「今の、千影の彼女?」
「違うよ」
「・・・」
「どうしてそんな事訊くの」
「だって・・・していたでしょう」
「・・・」
「匂うよ」
「ははっ、やっぱり敏感だね、明乃は」
「・・・」
「いつもは明乃が帰ってくる前に換気していたんだけど、今日に限って帰って来るの早いからなぁ」「いつも彼女じゃない女の子と家でしているの?」
「まぁ気が向いた時だけ」
「・・・ふぅん」
「其れより今日は中村さん休みなんだ。晩ご飯、どうする?」
「ある物で済ませるよ」
「ある物って・・・何もないよ」
「冷蔵庫の中の物で作ればいいでしょう」
「えぇ、面倒くさい」
「・・・解った、私が何か作るよ」
「ふふっ、ありがとう明乃。持つべきは理解ある料理好きの妹だね」
「・・・」

私はそっとため息をつきながら部屋着に着替えてキッチンに向かったのだった。


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