私は何か思い違いをしていたのだろうか──? 


「其れでね、いっつも兄貴は勝手に俺の部屋に入って来て知らない間に買って来たばかりの漫画を持って行っちゃう訳」
「・・・」
「弟に関してはもう可愛い時期は幼稚園まででさ、小学生になった途端に生意気になっちゃって」
「・・・」

(先刻から私、何を訊かされているのかしら)

つい一時間ほど前から付き合う事になった刑部くん。

其の彼に

『其れじゃあ・・・あの、早速だけど・・・お茶でも飲みに行かない?』

と誘われたからてっきり───


「遠峰さん?」
「・・・・・・え」
「あの・・・俺の話、面白くない?」
「いいえ、そんな事ないわ」
「そう?なんか上の空だったから面白くないのかなって───あ、遠峰さんって兄弟いる?」
「えぇ、兄がひとり」
「そうなの?俺と同じだね」
「でも弟はいないわ」
「そっか、お兄さんだけなんだね」
「・・・」

『うん。其の・・・もっとお互いの事を知るために話がしたいなと思って』

(まさか本当に言葉通りの意味だったとは)


駅近くにあるカフェに入ってから刑部くんは自分の自己紹介から始まり家族構成、趣味や好きな食べ物など、兎に角事細かに喋り続けていた。

(なんだか・・・変な人)

この行動パターンは初めての事だった。

だって今まで付き合って来た人たちは、直ぐにホテルに直行していたから。

だからてっきり刑部くんもお茶を飲みに行かない?と云いつつも、其れはホテルで飲む事になるのだと思っていた。

(でも違った)

彼の誘い文句は其の言葉の意味其のままのものだった。


「はぁ~喋り過ぎて喉が渇いた───っともうコーヒーないや」
「よかったらどうぞ」
「え」

私は刑部くんに飲みかけの紅茶を差し出した。

「少し冷めているかも知れないけれど全部飲んじゃっていいから」
「・・・」
「刑部くん?」

何故か刑部くんの顔が徐々に赤く染まって来た。

「えーっと・・・あの」
「遠慮しなくていいのよ。私、もう飲まないから」
「・・・」
「刑部くんが飲まなかったらこの紅茶、捨てられちゃうわよ」
「・・・そ、っか・・・じゃあ・・・遠慮なく」

そう云いながらカップを手に取り、ゆっくりな動作で飲み始めた。

「刑部くんって左利きなの?」
「えっ」
「だって左手でカップ持っているから」
「あ・・・いや、違う。右利きだけど」
「そうよね?先刻は右手で持っていたもの」
「・・・」
「ごめんなさい、前と違う事を見せられるとつい気になってしまう性質(タチ)で」
「あ、ううん、いいんだ───あの・・・だって・・・右手で持ったら・・・遠峰さんとか・・・かっ」
「か?」
「か、かん・・・間接キ・・・・・・スしちゃうじゃないか」
「・・・」

そう云ったきり、刑部くんは先程と打って変わって静かになってしまった。

(・・・何、其れ)

たかが間接キスで何が恥ずかしいというのだろう。

実際に口と口を重ねてキスしている訳じゃないのに。


(・・・本当、おかしな人)

私は今まで付き合って来た人と明らかに違い過ぎる刑部くんにほんの少しだけ興味が湧いて来たのだった。

✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼

◆ランキングサイトに参加中です。
応援クリックいただけると色んな意味で励みになります。

小説(官能小説) ブログランキング
にほんブログ村 大人の生活ブログ 恋愛小説(愛欲)へ
にほんブログ村